「愛知県で製造業の仕事を探しているけれど、EV化が進むと今の仕事はなくなってしまうのではないか」——自動車産業が地域経済を支える愛知県では、こうした不安を口にする求職者が増えています。ガソリン車からEV(電気自動車)への移行は、単に「作る車の種類が変わる」だけでなく、部品の構成そのものが変わり、必要とされる技術やスキルが大きく変化することを意味するからです。
一方で、「EV化=製造業の仕事が減る」という単純な図式だけで捉えるのも早計です。実際には、なくなっていく仕事がある一方で、新しく生まれる仕事、これまでと変わらず必要とされる仕事も存在します。大切なのは、EV化という大きな流れの中で、自分の仕事や目指すキャリアがどの位置にあるのかを把握しておくことです。
この記事では、愛知県の製造業がEV化によってどのような影響を受けているのか、公的な統計・資料をもとに整理したうえで、これから求められるスキルや、製造業で働く人が今からできる備えについて解説します。
愛知県の製造業とEV化のいま
愛知県はなぜ自動車産業の集積地なのか
愛知県は、製造品出荷額等が52兆4098億円(2022年・経済構造実態調査)と全国1位を誇り、1977年以来トップの座を守り続けているものづくり県です。県内で製造業に従事する人は約81万人(令和3年経済センサス‐活動調査)にのぼり、その中核を担っているのが、トヨタ自動車を筆頭とする自動車・輸送用機械器具製造業です。
豊田市・刈谷市・安城市を中心とする西三河エリアには、完成車メーカーから一次・二次サプライヤーまでが幾重にも連なるサプライチェーンが形成されており、県内の雇用の多くをこの自動車産業が支えています。だからこそ、自動車のパワートレイン(動力源)がエンジンからモーター・バッテリーへと転換していくEV化の動きは、愛知県の製造業にとって他の地域以上に大きな意味を持ちます。
世界的なEVシフトの流れ
各国の環境規制強化や技術革新を背景に、自動車業界全体で電動化(xEV化)が進んでいます。経済産業省は2018年に有識者会議「自動車新時代戦略会議」を設け、電動化・知能化(CASE)によって自動車部品の構造がすり合わせ型からモジュール型へと転換していく可能性や、電動化に対応できる人材育成の必要性について検討を行いました(出典:経済産業省「自動車新時代戦略会議」中間整理等)。こうした国レベルの議論が行われてきたこと自体が、EV化が単なる技術トレンドにとどまらず、産業構造・雇用構造に関わるテーマであることを示しています。
日本自動車工業会(JAMA)の公表資料によれば、自動車関連産業の国内就業人口は約550万人(就業者全体の約1割)にのぼるとされています(出典:日本自動車工業会「日本の自動車工業」)。これほどの規模の産業が構造変化を迎えることは、地域の雇用にも少なからず影響を及ぼすと考えられます。
愛知県の製造業にとってのEV化の意味
EV化は、単なる「車種の変化」ではなく、自動車を構成する部品そのものの種類・製造工程が変わることを意味します。エンジン・トランスミッションといった内燃機関関連部品を作ってきた企業にとっては事業の転換が必要になる一方、モーター・バッテリー・パワーエレクトロニクスといった電動化関連部品には新たな需要が生まれています。愛知県内の自動車部品メーカー各社も、既存の技術を活かしながら電動化対応製品への投資を進めている段階にあります。
EV化で変わる部品構成と仕事内容
自動車の部品構成が変わることで、製造現場で求められる仕事の中身にも変化が生まれています。一般的に、エンジン車は数万点規模の部品で構成される一方、EVはエンジンや変速機などの可動部品が少なく、部品点数そのものが減少する傾向にあると言われています。ただし、影響の度合いは部品の種類によって大きく異なります。
影響を受けやすい仕事:内燃機関専用部品
エンジン・燃料噴射装置・排気系(マフラー・触媒コンバーターなど)・変速機(トランスミッション)といった、内燃機関に特化した部品の製造は、EV化が進むほど需要が緩やかに縮小していく可能性があります。こうした部品を専業で手がけてきた企業では、既存の加工技術を活かせる新分野への転換が課題になっています。
需要が拡大していく仕事:電動化関連部品
駆動用モーター、リチウムイオン電池(バッテリー)、インバーターなどのパワーエレクトロニクス、そしてバッテリーやモーターの熱を管理する熱管理部品は、EV化にともなって需要が拡大していく分野です。愛知県内の大手部品メーカーも、こうした領域への設備投資を進めています。
変わらず必要とされる仕事:足回り・内外装・車体部品
サスペンションやブレーキ、ボデー、シート、内装部品など、パワートレイン(動力源)の種類にかかわらず必要とされる部品も数多くあります。プレス加工・溶接・樹脂成形・品質管理といった技術は、エンジン車・EVを問わず引き続き求められる仕事です。
実際に、熱管理部品や電装系部品を手がける企業では、EV向けの需要拡大を背景に生産体制の拡張が進む例もあります。たとえば西尾市では、自動車用エアコンやラジエーターといった熱管理部品を手がける大手メーカーが、電動コンプレッサーなど電動化対応製品向けの新工場建設を進めており、地域単位で仕事の中身が変わりつつある様子がうかがえます(詳しくは「西尾市の自動車部品・電気機器メーカーで働く|EVシフトを支える部品産業の最前線」を参照)。
雇用への影響をどう見るか|公的な視点
経済産業省・自動車工業会の見方
経済産業省の「自動車新時代戦略会議」では、電動化の進展によって部品の構造が「すり合わせ型」から「モジュール型」へと転換していく可能性や、電動化に対応できる人材の育成が課題になることが指摘されました。日本自動車工業会(JAMA)も、電動化にともなって求められる技術領域が広がっていくとの見解を示しており、内燃機関関連の技術に加えて、電気・電子・ソフトウェアといった分野の人材育成が課題になると指摘しています。
急激な変化ではなく段階的な移行
ただし、こうした変化は一夜にして起こるものではありません。既存のエンジン車・ハイブリッド車(HV)の生産・整備・部品供給は当面続くと見込まれており、EVへの完全な置き換えには一定の年数がかかるとされています。愛知県内の自動車・部品メーカー各社も、既存事業を維持しながら電動化関連の新技術に段階的に投資を進めているのが実情です。「今すぐ仕事がなくなる」という性質の変化ではなく、数年〜十数年単位で徐々に部品構成と技術領域が入れ替わっていく移行期と捉えるのが実態に近いといえます。
製造業で働く人が今からできる備え
社内の研修・教育制度を確認する
大手部品メーカーを中心に、電動化に対応した技術研修や資格取得支援を用意する企業が増えています。今の職場にどのような教育制度があるか、まずは確認してみることが備えの第一歩です。
配属先の技術領域を意識して求人を見る
同じ「自動車部品メーカー」でも、内燃機関専用部品を手がける部署なのか、電動化関連部品を手がける部署なのかによって、今後の仕事の広がり方は変わります。求人票や会社概要の事業内容を確認し、どの技術領域に関わる仕事かを見極めることが大切です。
中小企業でも電動化対応を進める企業を見極める
電動化への投資は大手メーカーだけでなく、独自の技術を持つ中堅・中小の部品メーカーにも広がっています。企業の採用ページや公式サイトで、電動化関連製品への取り組みが紹介されているかを確認すると、将来性を見極める材料になります。
現場で培った品質・工程管理の経験を強みとして捉える
製造現場で身につけてきた品質管理・工程改善の経験は、部品の種類が変わっても通用する普遍的なスキルです。「新しい技術を一から学ぶ」のではなく、「これまでの経験に電動化の知識を積み重ねる」という視点を持つと、キャリアの選択肢を広げやすくなります。
刈谷市のように、大手サプライヤーの研究開発機能が集積するエリアでは、設計・生産技術など技術系の職種の受け皿が厚く、電動化に対応した仕事へのキャリアチェンジもしやすい環境が整っています(詳しくは「刈谷市の自動車部品業界で働く|トヨタグループ発祥の地に集まる仕事と特徴」を参照)。
変化の中でも、愛知の製造業に「続く仕事」を見つける
EV化は、愛知県の自動車産業にとって部品構成そのものが変わる大きな転換点です。内燃機関専用部品の需要が緩やかに縮小する一方で、モーター・バッテリー・熱管理部品といった電動化関連の仕事は拡大しており、品質管理・生産技術など変わらず必要とされる仕事も数多くあります。
大切なのは、「EV化で仕事がなくなるかもしれない」という漠然とした不安にとどまるのではなく、自分が関わる仕事・目指す仕事がこの変化の中でどこに位置するのかを具体的に把握することです。今の職場の電動化への取り組み、求人票に記載された事業内容、必要とされるスキルを一つずつ確認していくことが、EV時代の製造業で長く働き続けるための第一歩になります。