「農業の仕事」と聞くと、天候に左右される不安定な収入や、収穫期だけの季節労働をイメージする人は少なくないかもしれません。実際、多くの産地では繁忙期と閑散期の差が大きく、通年で安定した働き方を見つけにくいという声もあります。
しかし愛知県田原市は、そのイメージとは少し異なる農業の街です。渥美半島の南に位置するこの街は、農業産出額が市町村別で全国2位、花き(花や観葉植物)の産出額に至っては全国1位という、日本有数の農業都市です。
なぜ田原市では、季節に左右されにくい働き方が成り立つのでしょうか。この記事では、田原市の農業の実態と、そこで働く仕事の内容、農業法人に社員として雇用される「雇用就農」という働き方について紹介します。あわせて、未経験者や女性、Iターン・Uターンで移住を考えている人でも働きやすい環境が整っているのかについても触れていきます。求職者や転職を考えている人、新卒・第二新卒で農業に関心がある人はもちろん、地方移住とセットで仕事探しをしている人にとっても参考になれば幸いです。
田原市はなぜ「農業日本一」の街なのか
農業産出額891億円・全国2位という数字の意味
田原市の農業産出額は令和5年で約891億円にのぼり、市町村別では5年連続で全国2位となっています(1位は宮崎県都城市)。一つの市がこれほどの産出額を出す背景には、花き・施設園芸・露地野菜・畜産といった複数部門が高いレベルで揃っていることが挙げられます。単一の作物や部門に依存する産地とは異なり、田原市は農業全体として厚みのある産業構造を持っています。
花き(電照菊)が日本一になった理由―渥美半島と豊川用水
田原市を含む渥美半島は、かつては水利に乏しく畑作中心の地域でした。転機となったのは1968年に全面通水した豊川用水です。安定した水源が確保されたことで、施設園芸や畜産を含む多角的な農業が発展しました。加えて渥美半島は温暖な気候と日照時間の長さに恵まれ、電照菊(輪菊)をはじめとする花きの一大産地へと成長を遂げています。現在では栽培面積・出荷量ともに全国トップクラスとなり、スプレー菊やバラ、カーネーションなども生産されています。花き産出額は全国1位という実績が、この街の農業を象徴しています。
「季節労働」ではない―3部門バランス型農業が生む通年雇用
花き・施設園芸・畜産の3本柱でリスクを分散する
田原市の農業が安定している理由の一つが、花き・施設園芸・畜産という3つの柱が並立している点です。花きでは電照菊を中心に周年で出荷を行い、施設園芸ではトマトや温室メロンをハウス栽培しています。露地でもキャベツ・ブロッコリー・レタスなど全国有数の産地としての顔を持ち、畜産では酪農・肉牛(田原牛・あつみ牛)・養豚・採卵鶏など多様な経営が行われています。一つの部門が天候や市況の影響を受けても、他の部門でカバーできる構造が、街全体としての農業の底堅さにつながっています。
輪作・周年出荷体系だから一年を通じて仕事がある
施設園芸や花きの多くはハウスなど施設内で栽培されるため、露地栽培に比べて天候の影響を受けにくく、周年での出荷体系が組まれています。畜産についても搾乳や飼育管理は季節を問わず毎日発生する業務です。こうした周年出荷・周年管理の仕組みがあることで、繁忙期だけの短期雇用ではなく、一年を通じて業務が発生する職場が多く存在します。
田原市の基幹産業は農業だけではありません。レクサス「LS」「LC」を生産するトヨタ自動車田原工場を擁する臨海工業地帯もあり、農業と製造業という二つの基幹産業が街を支えています。とはいえ、この記事の主役はあくまで農業です。次の章では、その現場で実際にどのような仕事があるのか、具体的な職種を見ていきましょう。
田原市の農業で働ける仕事・職種
田原市の農業には、栽培・生産だけでなく多様な職種があります。
花き栽培スタッフ
電照菊やスプレー菊、バラなどのハウス栽培・出荷調整を担当。周年での作業が中心です。
施設園芸(トマト・メロン)スタッフ
ハウス内でのトマトや温室メロンの栽培管理、収穫・選果作業を行います。
露地野菜の生産スタッフ
キャベツやブロッコリー、レタスなど露地野菜の栽培・収穫・出荷に携わります。
酪農・畜産スタッフ
搾乳ロボットなどの設備を活用した酪農や、肉牛・養豚・採卵鶏の飼育管理を担当します。
集出荷・選果ラインスタッフ
JA愛知みなみの集出荷施設などで、選別・箱詰め・出荷調整を担う仕事です。
農業法人での雇用就農とは―個人就農との違い
個人就農(自営)と雇用就農(農業法人の社員)は何が違うのか
農業への関わり方には大きく分けて2通りあります。自分で農地を持ち経営者として農業を営む「個人就農」と、農業法人に社員として雇用され働く「雇用就農」です。個人就農は農地の取得や初期投資、経営の判断を自ら行う必要がありますが、雇用就農であれば農業法人の従業員として栽培や飼育の業務に従事する形になります。田原市には花き・施設園芸・畜産の分野で組織的に経営を行う農業法人が複数あり、雇用就農という選択肢が広がっています。
正社員雇用・社会保険完備という安心材料
農業法人での雇用就農では、正社員としての雇用契約や社会保険の完備が一般的になりつつあります。天候不順で収穫量が落ち込んだ年でも毎月の給与が保証される点は、経営リスクをすべて自分で背負う個人就農にはない安心材料です。まずは組織の一員として、栽培技術や飼育管理のノウハウを学べる点も特徴です。将来的に独立就農を目指す人にとっても、雇用就農は実践的な経験を積む場として選ばれています。
未経験・女性・Iターンでも働ける理由
田原市の農業現場では、未経験者や地域外から移り住んだ人でも働きやすい環境づくりが進んでいます。力仕事のイメージが強い酪農や畜産だけでなく、体力的な負担が少ない仕事もあります。先ほど紹介した集出荷・選果ラインスタッフのように、女性が最初の一歩として選びやすい職種も揃っています。
省力化設備の導入
酪農の搾乳ロボットなど、身体的な負担を軽減する設備の導入が進み、経験や体力に頼らない働き方が可能になっています。
OJTによる技術習得
農業法人では現場での実地研修(OJT)が一般的で、農業未経験者でも段階的に技術を身につけられます。
新規就農・移住者への支援制度
農家での受入技術研修や、就農準備金・経営開始資金といった国・自治体の支援制度を活用できます。
隣接する豊橋市には、東三河一帯の農産物を活用した食品加工業も集積しており、農業と食品産業の両面からキャリアを考えることもできます。
田原市の農業は「季節労働」ではなく「通年雇用」の産業になっている
田原市は農業産出額が全国2位、花きの産出額が全国1位という、日本を代表する農業都市です。花き・施設園芸・畜産という3つの柱が並立し、周年での栽培・出荷体系が組まれていることで、季節だけに偏らない働き方が成立しています。農業法人による雇用就農が広がり、正社員雇用や社会保険完備といった安心材料も増えてきました。未経験者や地域外から移り住んだ人でも、OJTや支援制度を活用しながらこの街の農業に携わることができます。花き・施設園芸・畜産のどの分野に惹かれたかによって、次に見るべき求人企業も変わってきます。気になる仕事が見つかったら、まずは求人企業の情報をチェックすることから始めてみてください。