愛知県高浜市といえば、三州瓦(さんしゅうがわら)の産地として全国に名を知られています。日本三大瓦のひとつに数えられる三州瓦は、国内生産シェアの約7割を占める日本最大の粘土瓦の産地であり、高浜市はその中心地です。「かわらのまち」として栄えてきたこの街には、瓦関連の窯業から、衣浦港の立地を活かした自動車部品製造まで、幅広い製造業が根付いています。
「製造業に興味はあるけれど、どんな職種があるのかわからない」「未経験でも働けるのか不安」という声をよく耳にします。高浜市の製造業は、伝統的な窯業の技術と、現代の自動車産業を支える精密加工技術が共存しているユニークな地域です。三州瓦の製造に関わる窯業・タイル成形・焼成といった職種から、自動車部品の組立・プレス・品質検査まで、多様なキャリアの入口があります。
この記事では、高浜市の製造業の産業構造・働く魅力・主要企業について詳しく解説します。転職を考えている方、ものづくりに関わりたい方、地元で安定して働きたい方の参考になれば幸いです。
高浜市の製造業の特徴|瓦と自動車部品が支える二本柱
高浜市の製造業は、大きく分けて「瓦(窯業)」と「自動車部品」という2つの産業が中心を担っています。それぞれが独自の技術文化を持ち、地域の雇用を支えてきた歴史があります。
三州瓦産業|日本の屋根を支える伝統技術
高浜市で瓦が作られるようになったのは約300年前のこと。衣浦湾に面した立地で船便による運搬が容易であったことと、瓦製造に適した良質な粘土が採れたことが、産業発展の礎となりました。現在も三州瓦工業協同組合が高浜市に拠点を置き、全国向けの瓦製造が続いています。
瓦産業の主な職種には、原料の調合・成形・乾燥・施釉(うわぐすり塗り)・焼成・検品といった工程があります。窯での焼成は1200度前後の高温が必要であり、温度管理や品質管理に熟練の技術が求められます。また、社寺仏閣向けの特殊瓦や鬼瓦(おにがわら)の製作には、職人の手仕事による造形技術が不可欠です。
自動車部品製造|衣浦港を活かした臨海工業地帯
高浜市は衣浦港に接する工業立地の優位性を持ち、自動車部品を中心とした製造業も盛んです。刈谷市・碧南市などの自動車産業集積エリアに隣接しており、トヨタグループ関連のサプライヤーが複数操業しています。オートマチックトランスミッション部品や自動車用シートフレームなど、精密な金属加工・組立が行われています。
高浜市の主な製造業企業|三州瓦(窯業)メーカー
高浜市の瓦メーカーは、同じ「瓦をつくる会社」でもつくっているものが大きく違います。屋根の大半を覆う桟瓦(さんがわら)を大量に焼く会社、軒先や棟に使う役瓦(やくがわら)と鬼瓦を専門にする会社、社寺や文化財の特注瓦を一点ずつ企画製造する会社と、設備も仕事の進み方も別物です。月産100万枚のトンネル窯を回す仕事と、文化財の指定瓦を図面から起こす仕事では、求められる技術がまったく異なります。
ここでは、高浜市に本社を置く瓦関連の4社を紹介します。大正時代の創業が2社、戦後創業が1社、昭和後期の創業が1社と、成り立ちにも幅があります。求人を見るときは、まず製造・販売・施工のどの部分を担う会社なのかを押さえておくと、仕事の中身を想像しやすくなります。
| 企業名 |
事業内容 |
| 野安株式会社 |
陶器瓦販売、屋根工事、各種類の屋根部材販売、太陽光工事 |
| 創嘉瓦工業株式会社 |
三州純いぶし瓦・純いぶし敷瓦(内装・外装材)の製造 |
| 株式会社ハイオーニー |
役瓦・鬼瓦・共通役瓦の製造・販売、各種屋根材の素材・形状開発 |
| 有限会社石保 |
一般瓦・社寺及び特殊瓦の製造販売(文化財及び指定瓦の企画製造) |
野安株式会社|愛知県高浜市の陶器瓦販売・屋根工事会社
公式サイトの沿革によれば、始まりは大正2年、野口安蔵が野安瓦店としていぶし瓦の製造を始めたことでした。ダルマ窯1基・月産6千枚・従業員3名からの出発です。昭和39年3月に野安製瓦株式会社を設立し、平成22年5月には株式会社三州石川・木村製瓦株式会社と3社合併して三州野安株式会社となりました。現在の野安株式会社は令和7年1月31日設立で、同年4月に三州野安株式会社から瓦販売部門・屋根工事部門・太陽光工事を譲り受けた会社です。本社は高浜市田戸町二丁目2-44、資本金300万円、従業員数20名、代表取締役は野口安則氏です。
会社概要に記載された事業内容は、陶器瓦販売・屋根工事・各種類の屋根部材販売・太陽光工事です。窯で焼く工程そのものではなく、瓦を売り、屋根に載せるところを担う会社だと考えると、仕事の中身がつかみやすくなります。公式サイトには瓦ができるまでを解説するページのほか、平成11年12月のISO9001認証取得、平成16年3月の愛知ブランド企業認定、同年6月の産業廃棄物広域認定取得といった三州野安時代からの取り組みが並びます。令和2年には瓦を使った雑貨「瓦猫プロジェクト」も始まっており、屋根材以外の商品開発にも手を広げている会社です。
本社所在地: 愛知県高浜市田戸町二丁目2-44
主な事業: 陶器瓦販売、屋根工事、各種類の屋根部材販売、太陽光工事
公式URL: https://www.noyasu.co.jp/
創嘉瓦工業株式会社|愛知県高浜市のいぶし瓦メーカー
昭和23年に石原嘉市氏・石原嘉明氏がいぶし瓦の製造を始めたのが創業です。昭和34年に塩焼瓦へ転換し、昭和38年3月に有限会社ヤマ嘉石原工場として法人化、昭和54年に組織を変更して創嘉瓦工業株式会社となりました。本社は高浜市豊田町一丁目5番地5、資本金2,000万円、従業員数50名、代表取締役は石原史也氏(令和元年就任)です。会社敷地は約20,500平米(6,200坪)あり、令和5年に創業75周年・法人設立60周年を迎えています。平成12年に販売部門を分離独立させて創嘉興産株式会社を設立しており、製造元が創嘉瓦工業、販売元が創嘉興産という二社体制です。
主力製品は「三州 純いぶし瓦」で、近年は内装・外装材として使える「純いぶし敷瓦」(平成29年販売開始)にも広げています。設備投資の歴史がそのまま沿革になっており、昭和54年にいぶし瓦用トンネルキルンを設置して月産35万枚で製造を開始、昭和59年に第二工場、平成5年に第一工場の合理化改築で合計月産100万枚、平成16年の第二工場全面改築で月産110万枚へと拡大してきました。昭和62年にJIS表示許可工場となり、平成19年には新JIS認証を取得しています。平板瓦「ビュール40」、本葺一体瓦「陽光」、耐震棟冠「新風」、軽量緩勾配瓦「純いぶしライト」など、製品開発を続けている点も特徴です。
本社所在地: 愛知県高浜市豊田町一丁目5番地5
主な事業: 三州純いぶし瓦・純いぶし敷瓦(内装・外装材)の製造
公式URL: https://www.souka.co.jp/
株式会社ハイオーニー|愛知県高浜市の役瓦・鬼瓦メーカー
昭和59年5月に岩本商店として創業し、鬼瓦の製造販売から始まった会社です。昭和63年9月に株式会社ハイオーニーを設立、平成6年6月に資本金1,500万円へ増資しています。本社は高浜市論地町五丁目6番地50、代表取締役は岩本亮真氏。愛知県陶器瓦工業組合と高浜市商工会議所に所属しています。創業から鬼瓦・役瓦という「屋根の端」を専門にしてきたメーカーで、公式サイトでも平板全国共通役瓦と鬼瓦各種を製品の柱に据えています。
営業品目は、役瓦の製造・販売、鬼瓦の製造・販売、共通役瓦の製造・販売、各種屋根材の素材・形状開発です。昭和64年1月に鬼瓦製造業者と共同で鬼瓦のジャストインタイム販売を始め、平成5年3月に平板役瓦の製造販売へ進出、平成6年6月には本社工場に役瓦専焼のトンネル窯を新設しました。平成20年4月には、メーカーごとに形が違っていた平板役物をそろえる「全国共通役瓦」の販売を開始しています。平成11年8月に東海工場で平板隅瓦の全自動工場が稼働、平成18年3月に碧南工場が稼働し、平成29年1月に出荷センターを論地町へ移転しました。製品開発と量産設備の両方を持つ職場です。
本社所在地: 愛知県高浜市論地町五丁目6番地50
主な事業: 役瓦・鬼瓦・共通役瓦の製造・販売、各種屋根材の素材・形状開発
公式URL: https://www.hiohny.com/
有限会社石保|愛知県高浜市の社寺・特殊瓦メーカー
大正15年(1926年)に石保瓦工場として設立された、三州瓦の窯元です。平成2年5月に有限会社石保へ社名を変更しました。本社は高浜市田戸町五丁目5番地20、代表取締役は諫山巧氏。三州瓦工業協同組合のほか、三州瓦伝統技術保存会・日本伝統瓦技術保存会にも所属しており、伝統技術を継承する側に立つ会社であることが所属団体からも見て取れます。
事業内容は一般瓦・社寺及び特殊瓦の製造販売で、製造内容として一般瓦・社寺・文化財及び指定瓦の企画製造を掲げています。公式サイトでは「他社では対応できない特注品を主に企画製造し、全国の名のある建築や文化財に多数かかわる」と自社の立ち位置を説明し、「いぶし瓦」にみられる日本独特の色をつくりだす仕事を代名詞として挙げています。同じ形の瓦を数多く焼く仕事ではなく、建物ごとに異なる瓦を図面から起こしていく仕事が中心です。今後は異業種との協働にも力を入れるとしており、瓦という建材の使い道そのものを広げようとしている窯元です。
本社所在地: 愛知県高浜市田戸町五丁目5番地20
主な事業: 一般瓦・社寺及び特殊瓦の製造販売(文化財及び指定瓦の企画製造)
公式URL: https://yu-ishiyasu.com/
高浜市の主な製造業企業|自動車部品メーカー
高浜市のもう一つの柱が、衣浦港に近い立地を活かした自動車部品製造です。紹介する2社はいずれも従業員数が800人を超える規模で、瓦メーカーとは働き方も設備もまったく違います。トヨタ紡織やアイシンといった完成車メーカー直系のサプライヤーを主な取引先としており、量産部品を安定した品質でつくり続けることが仕事の中心になります。
ここでは、高浜市に本社を置く自動車部品メーカー2社を紹介します。片方はシートの骨格やプレス部品、もう片方はオートマチックトランスミッション部品と、扱う部品も工程も異なります。プレス・溶接の工程を志望するのか、切削・熱処理の工程を志望するのかで、応募先は変わります。
トヨタ紡織精工株式会社|愛知県高浜市の自動車シート部品メーカー
1992年7月1日に「トヨタ車体精工株式会社」として設立された会社です。トヨタ車体のシート板金部門と子会社の協和興産が統合して生まれ、設立時の資本金は5億円、トヨタ車体の100%出資でした。2006年1月に資本金を8億6,900万円へ増資し、2023年10月にトヨタ紡織が株式を追加取得して子会社化、社名を「トヨタ紡織精工株式会社」へ変更しています。さらに2026年4月にはトヨタ紡織が保有比率を100%へ引き上げ、完全子会社へ移行しました。本社は高浜市新田町1丁目1番地、従業員数は1,478人(2025年4月末時点)、代表取締役社長は深本昌宏氏です。
主な製品はシート機能部品・シートフレーム・小物プレス品・精密プレス品で、クルマの座席を支える骨格まわりを担っているメーカーです。拠点は本社・高浜工場のほか、三重県のいなべ第1・第2工場、豊橋工場、各務原工場に広がり、海外にもタイ(SMPT)と中国(SMPC)の子会社があります。2015年7月には岐阜車体工業からシートトラック事業を譲り受け、各務原工場の運営を始めました。主な取引先はトヨタ紡織・トヨタ車体・アイシン・岐阜車体工業です。2010年2月にはトヨタグループで初めて品質・環境・労働安全衛生の統合マネジメントシステム認証を取得しており、安全と品質の仕組みが整った職場だといえます。採用は大卒・高卒の両方の窓口が公式サイトに用意されています。
本社所在地: 愛知県高浜市新田町1丁目1番地
主な事業: シート機能部品、シートフレーム、小物プレス品、精密プレス品の製造
公式URL: http://www.tbseiko.co.jp/
エヌティーテクノ株式会社|愛知県高浜市のオートマチックトランスミッション部品メーカー
創業は1926年3月、名古屋市中区に内藤鉄工所を創立し、車両部品や電線機械を製造したことに始まります。1951年4月に株式会社内藤工機製作所として法人化し、1957年9月に愛知工業(現・アイシン)の協力工場として取引を開始しました。高浜市とのつながりは1985年8月の論地町への工場増築(現・第2工場)からで、1989年8月に第1工場を建設、1990年1月に本社を移転しています。1991年4月に社名をエヌティーテクノ株式会社へ変更しました。本社は高浜市論地町5-1-10、資本金4,840万円、従業員数は877名(2026年4月現在、直接雇用の正社員・嘱託社員)で、2026年3月にグループ創立100周年を迎えています。代表取締役社長は内藤大介氏です。
事業内容は自動車用オートマチックトランスミッション部品の製造です。主な取引先はアイシン・アイシン福井・アイシン機工・ダイナックス・豊田自動織機などで、1969年のアイシン・ワーナー設立時から協力工場として関わってきた歴史があります。2004年7月には第3工場に連続ガス浸炭炉を導入して熱処理を内製化しており、切削だけでなく熱処理まで自社で抱えている点が特徴です。2020年6月には高浜市豊田町に高取工場を建設しました。品質面では1994年11月にデミング賞実施賞中小企業賞を受賞し、2000年2月にISO9001、2006年10月にISO14001、2024年9月には自動車業界規格のIATF16949を取得しています。関連会社にエヌティー精密・エヌティーツール・エヌティーエンジニアリングがあり、グループ内での配属先の幅もある会社です。
本社所在地: 愛知県高浜市論地町5-1-10
主な事業: 自動車用オートマチックトランスミッション部品の製造
公式URL: https://www.nt-techno.co.jp/
高浜市の製造業は「伝統と現代が交差するものづくりの街」
高浜市は、300年の歴史を誇る三州瓦産業と、自動車産業を支える精密部品製造が共存する、全国でも珍しいものづくりの街です。「かわらのまち」として培われてきた職人気質の文化と、トヨタグループのサプライヤーとして培われてきた品質への厳格さ。この二つが同じ地域に根付いていることが、高浜市の製造業の大きな特徴です。
瓦産業では、成形・焼成・検品といった工程ごとに必要なスキルが異なり、自分の適性に合った役割を見つけやすいです。自動車部品製造では、精密な品質管理や組立技術を身につけることで、長期的なキャリアを築いていけます。どちらの業種も、未経験からのスタートを受け入れている企業が多く、研修体制が整っているのは共通しています。
条件だけで仕事を選ぶのではなく、「どんな技術を身につけたいか」「どんなものを作る仕事がしたいか」という視点で探してみると、高浜市の製造業には魅力的な選択肢が見えてくるはずです。伝統の技術を受け継ぎながら、または最先端の部品製造に関わりながら、高浜市で長く働くキャリアを考えてみてください。