せっかく育てた若手社員が、入社3〜4年目で辞めていきます。中小企業の経営者から、こうした悩みを聞く機会は少なくありません。採用にも教育にも時間とコストをかけたのに、現場を一人で回せるようになった頃に退職されてしまうと、周りの社員の負担だけが積み重なっていきます。「今の若い人はすぐ辞める」という感覚を持っている経営者も多いはずです。
ただ、経営者自身が、若手が本当に不満を感じていた理由を把握できていないケースが多いことも、調査から見えてきています。退職面談で聞いた理由と、本音として抱えていた理由が食い違っていることは珍しくありません。数字そのものより、「見えていないこと」自体が問題になっている、というのが実態です。そして、本当の理由が見えていない以上、「何から手をつければいいか」も定まらないまま、次の離職を迎えてしまいがちです。
この記事では、若手の離職率の実態から、辞める理由の上位、給与以外で効く取り組み、入社1年目のフォロー設計、評価・キャリアパスの見せ方、福利厚生でできることまでを順に整理します。公的統計と民間調査を区別しながら、中小企業でも手が届く打ち手を確認していきます。
若手の離職率の実態
厚生労働省が2025年10月24日に公表した「新規学卒就職者の離職状況」(令和4年3月卒業者)によると、新規高卒就職者の3年以内離職率は37.9%、新規大卒就職者は33.8%でした。3人に1人以上が、入社から3年以内に離職している計算になります。
この離職率は、企業規模によって大きな差があります。同調査では、事業所規模別の3年以内離職率が示されています。
| 事業所規模 | 高卒 | 大卒 |
|---|---|---|
| 5人未満 | 63.2% | 57.5% |
| 5〜29人 | 54.6% | 52.0% |
| 30〜99人 | 45.2% | 41.9% |
| 100〜499人 | 36.7% | 33.9% |
| 500〜999人 | 29.9% | 31.5% |
| 1,000人以上 | 26.3% | 27.0% |
5人未満の事業所と1,000人以上の事業所を比べると、高卒・大卒いずれも1.5〜2倍程度の差があります。中小規模の事業所ほど、若手の早期離職が起きやすい構造になっています。
一方で、離職率は業種によっても差があります。同調査で離職率が高い業種には、宿泊業・飲食サービス業(64.7%)などが挙げられており、製造業はこうした上位の業種には入っていません。業種全体で見ると、製造業は比較的定着しやすい業種です。
なお、愛知労働局が独自に集計した離職率の統計は公表されていないため、地域単位での断定的な比較はできません。参考情報としては、愛知労働局が運用する「ユースエール認定制度」があり、認定基準の一つに「直近3事業年度の新卒者等の離職率が20%以下であること」が含まれています。この基準の低さからも、離職率20%を下回ることが一定の目安として位置づけられているとわかります。
ジンジブは2026年3月に「若手エース社員の退職理由」調査を実施しました。対象は人事機能のない中小企業の経営者・役職者508人と退職経験者510人の計1,018人で、民間調査です。この調査では、離職率とは別の角度から興味深い結果が出ています。経営者側の46.5%が「本当の不満を把握できていなかった」と回答し、94.7%が「予兆に気づけず対策できなかった」と回答しています。離職率そのものより、「社員が何を不満に感じているか見えていない」ことの方が、根本的な課題であることを示す結果です。
離職が発生すると、採用コストだけでなく教育コストや引き継ぎの負担も重くのしかかります。複数メディアの試算(二次情報)では、1人あたりの離職コストは180〜530万円程度とされており、離職を防ぐこと自体が採用コストの軽減につながると考えられます。採用そのものの難しさについては、求人を出しても応募が来ない|まず見直す5つのポイントでも整理しています。
辞める理由の上位5つ
中小企業で働く若手は、実際どんな理由で辞めているのでしょうか。厚生労働省「令和5年若年者雇用実態調査」では、初めて勤務した会社をやめた理由(複数回答)について、次のような結果が出ています。
労働時間・休日・休暇の条件(28.5%)
残業の多さや休日の取りにくさなど、働く時間そのものに対する不満が最も多く挙げられています。
人間関係(26.4%)
上司・先輩・同僚との関係性が、離職理由の上位に入っています。
賃金の条件(21.8%)
給与水準や昇給の見込みに対する不満も、一定の割合を占めています。
仕事が合わない(21.7%)
業務内容が自分に合わないと感じることも、離職につながる要因の一つです。
成長の実感が持てない
スキルやキャリアの手応えを感じられないことも、特に若手では見過ごせない理由になっています。
これは公的統計であり、建前として答えやすい理由が上位に出やすい側面もあります。一方、エン・ジャパンは2024年に「本当の退職理由」調査を実施しました。『エンゲージ』利用者5,168人を対象にした民間調査で、会社に伝えなかった本音の退職理由のトップは「人間関係が悪い」46%という結果が出ています。これは民間調査であり公的統計とは性質が異なりますが、「本音では言われにくい理由ほど、実際には大きい」という傾向を示しています。
また、前述のジンジブ「若手エース社員の退職理由」調査では、「成長の実感がなかった」ことを退職理由に挙げた20代は、30代以上と比べて8.5倍にのぼるという結果も出ています。若手にとって、給与や待遇以上に「この会社で成長できているか」という感覚が、離職を左右する大きな要素になっています。この点は、次の章で触れる「給与以外の打ち手」を考えるうえでの出発点になります。
給与以外で効く要素
中小企業にとって、給与水準だけで大手企業に対抗するのは簡単ではありません。しかし、前章で見た「人間関係」や「成長の実感」といった理由は、給与を上げることとは別の方法でも改善の余地があります。
労働政策研究・研修機構(JILPT)の事例報告では、三重・愛知・広島に拠点を持つ従業員420人規模の製造業が紹介されています。この企業がメンター制度を導入した結果、新卒入社1年以内の離職率は17%から0%に改善しました。この企業の具体的な社名は特定されていませんが、愛知にも拠点を持つ製造業であり、人数規模としても中小企業に近い実例です。
給与を大きく変えられなくても、次のような取り組みは中小企業でも導入しやすい打ち手です。
メンター・ブラザーシスター制度
直属の上司とは別に、年齢の近い先輩が相談役になることで、若手が本音を話しやすい関係を作れます。
定期的な1on1・声かけの仕組み化
困ったときだけでなく、定期的に話す場を設けることで、不満が蓄積する前に気づける機会が増えます。
小さな成果でも承認する文化
大きな成果を待たず、日々の業務の中での成長や工夫を認めることが、成長実感の積み重ねにつながります。
裁量を持たせる小さな仕事の割り振り
規模が小さい分、若手にも裁量のある仕事を任せやすいのが中小企業の特性です。小さな裁量の積み重ねが、仕事への手応えを育てます。
入社1年目のフォロー設計
若手の不満は、入社してすぐの時期から徐々に蓄積していく傾向があります。前章のメンター制度や1on1も、場当たり的に行うのではなく、時期に応じた段階的なフォローとして設計することで、離職の予兆に早く気づきやすくなります。
入社1週間:環境・人間関係の不安を解消する声かけ
新しい環境に慣れていない時期は、業務内容よりも職場の雰囲気や人間関係への不安が大きくなりやすいタイミングです。
入社1ヶ月:業務理解度と小さな不満の早期ヒアリング
仕事を覚え始める時期に、理解度や小さな疑問・不満を聞き取ることで、大きな問題になる前に対処できます。
入社3ヶ月:成長実感・評価の方向性を伝える面談
ある程度業務に慣れた時期に、どのように成長しているか、今後どう評価されるかを伝えることで、手応えを感じてもらえます。
半年〜1年:キャリアの見通しを一緒に確認する面談
1年を見据えて、今後どんな仕事に携わっていけるかを一緒に確認することで、長く働くイメージを描けるようになります。
社員数が少ない中小企業では、経営者や先輩との距離が大企業より近いことが多くあります。こうした段階的なフォローを特別な制度として構えなくても、日々の関わりの中で仕組み化しやすいのが中小企業の強みです。
評価とキャリアパスの見せ方
若手の離職理由の一つに「成長の実感が持てない」がありましたが、これは必ずしも昇給そのものを指しているわけではありません。今の仕事が今後どう活かされるのかを説明するだけで、受け止め方が変わることがあります。評価が昇給に直結しない場面でも、「この経験が次にどう生きるか」を伝えることは、中小企業でも今すぐ取り組める工夫です。
中小企業には、大手企業にはない強みもあります。経営者との距離が近く、早い段階から責任のある仕事を任されやすいこと、資格取得への支援を柔軟に行いやすいことなどです。こうした強みを言語化して伝えることについては、中小企業のメリット・デメリット|愛知の大手比較で後悔しない選び方でも詳しく整理しています。
経営者が直接キャリアの話をできる距離感
組織の階層が少ない分、経営者や管理職と直接キャリアについて話せる機会を持ちやすくなります。
入社早期から任される裁量・責任
若手でも早い段階から裁量のある業務に関われることは、成長実感を得やすい環境につながります。
資格取得支援などの学びの後押し
業務に関連する資格取得を会社として後押しすることで、将来に向けたスキルの積み重ねを支援できます。
福利厚生でできること
評価やキャリアパスの見せ方に加えて、もう一つ中小企業が手を伸ばしやすいのが福利厚生です。給与水準や知名度で大手企業に見劣りしやすい分、福利厚生は差別化できる要素の一つになり得ます。
柔軟な休暇制度・時短勤務
有給休暇の取りやすさや、状況に応じた時短勤務の対応は、長く働き続けるための土台になります。
資格取得・研修費用の補助
業務に関連する学びへの投資を会社が後押しすることで、成長実感と直結する支援になります。
社内コミュニケーションを支える小さな制度
食事会の補助や部署を越えた交流の機会など、規模の大きくない制度でも人間関係の改善に役立つ場合があります。
ただし、福利厚生は単体で機能するものではありません。ここまで述べてきた1年目のフォロー設計や、評価・キャリアの見せ方と組み合わせることで、初めて効果を発揮します。福利厚生という制度面の工夫は、すでに多くの企業が取り組んでいるテーマであり、だからこそ「どう組み合わせるか」が差になりやすい部分です。
よくある質問
Q1 離職率が高いのは給与が低いからですか?
給与だけが原因とは言えません。厚生労働省「令和5年若年者雇用実態調査」でも、労働時間・休日の条件や人間関係が賃金の条件より高い割合で挙げられており、民間調査では成長実感の欠如も大きな要因として挙がっています。給与以外の要素を見直すことも、離職防止には欠かせません。
Q2 若手の本音の退職理由はどうやって把握すればいいですか?
退職面談だけで本音を把握するのは難しい傾向があります。退職を決めた後では、本当の理由を話してもらえないケースも多いためです。在籍中の定期的な1on1や、入社後の段階的なフォロー面談を通じて、早い段階から小さな不満を聞き取れる仕組みを作ることが有効です。
Q3 中小企業でもメンター制度は導入できますか?
導入できます。労働政策研究・研修機構(JILPT)の事例報告では、従業員420人規模の製造業がメンター制度を導入し、新卒1年以内の離職率を大きく改善させた例が紹介されています。人数規模の大小に関わらず、仕組みとして導入できる取り組みです。
Q4 定着率を上げる取り組みはすぐに効果が出ますか?
短期間で数値が大きく改善することを期待しすぎないほうが現実的です。1年目のフォロー設計や評価の見せ方といった取り組みは、継続して積み重ねることが前提になる仕組みであり、単発の施策だけで結果が出るものではありません。
Q5 福利厚生を充実させれば離職は防げますか?
福利厚生の充実だけで離職を防げるとは言えません。福利厚生は、評価・キャリアパスの見せ方や、入社後のフォロー設計と組み合わせることで初めて効果を発揮するものであり、単独の制度として整えるだけでは不十分です。
辞める理由は「見えていない」だけ
公的統計が示す若手の離職率の高さは、決して小さな数字ではありません。しかし、それ以上に大きな課題は、経営者自身が本音の退職理由を把握できていないケースが多いという点です。
人間関係や成長の実感といった、数字だけでは見えにくい要因が、実際には離職を左右しています。
給与を大きく変えられない中小企業であっても、着手できる打ち手はあります。1年目のフォロー設計、評価・キャリアパスの見せ方、福利厚生の組み合わせという、手が届く範囲の取り組みから始めることができます。まずは、今の社員が何を感じているかを、見えるようにすることから始めてみてください。次の1on1や声かけのタイミングで、ひとつだけ本音を聞く質問を加えてみましょう。それだけでも、今まで見えていなかったものが見え始めるはずです。