「愛知県で就職・転職したら、初任給はどれくらいもらえるのか」——新卒で社会に出る人にとっても、第二新卒で入り直す人にとっても、最初の一歩で気になるのが初任給です。ところが初任給は学歴・業種・企業規模によって大きく変わるため、「だいたいこれくらい」という感覚だけでは判断を誤りやすいテーマでもあります。
ここ数年、初任給は春の賃上げを背景に過去最大級のペースで上昇しています。厚生労働省の最新調査でも、大学卒の初任給はある大きな節目をはじめて超えました。数年前の相場観のまま就職・転職活動をしていると、いまの水準を大きく見誤ってしまいます。
本記事では、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(全国の企業を対象に、学歴・年齢・企業規模・業種ごとの詳細な賃金水準を毎年調べる国の基幹統計)を中心とした公的データにもとづき、初任給を学歴別・企業規模別・業種別に整理します。結論から言うと、愛知県は一般労働者の平均賃金・最低賃金がともに全国平均を上回る、全国でも数少ない「賃金水準の高い地域」であり、初任給の面でも上位クラスに位置すると考えられます(詳しくは後述)。出典のない数値や求人サイト由来の個別数値は使わず、調査名・公表年を明記したうえで、愛知県で働くことを考える人が判断の土台にできるファクトを提示します。
初任給はいまいくら?まず押さえたい全国の最新水準
初任給を考えるうえで、まず全国の「いまの相場」を押さえておきます。愛知県の初任給を語るにも、全国水準という物差しがあると位置づけを理解しやすくなるからです。
厚生労働省「令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査」によると、大学卒の初任給(全国・男女計)は月額26万2,300円で、前年から約5.6%の上昇となりました。統計開始以来はじめて26万円台に乗った水準です。高校卒も20万7,300円(前年比+5.0%)と、こちらも過去最大級の伸びを示しています。
この上昇は一時的なものではありません。連合(日本労働組合総連合会)が公表した「2026春季生活闘争 第1回回答集計」では、賃上げ率(加重平均=各企業の賃上げ率を組合員数の重みで平均した値)が5.26%と3年連続で5%を超えました。近年は初任給や若年層に賃上げ原資を厚く配分する企業が増えているとされ、初任給の水準は数年前とは明確に変わっています。就職・転職の情報収集では、できるだけ新しい年の統計を見ることが重要です。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」/連合「2026春季生活闘争 第1回回答集計」(2026年3月)
学歴別に見る初任給の水準
初任給の差がもっともはっきり出るのが学歴です。以下は、全学歴の内訳が確定値(速報段階ではなく全項目が出そろった数値)としてそろっている厚生労働省「令和6年(2024年)賃金構造基本統計調査」の新規学卒者データ(全国・男女計・月額)です。最新の令和7年調査では大学卒・高校卒がさらに上昇しているため、下表は「学歴間でどれだけ差がつくか」の構造をつかむための基準としてご覧ください。
| 学歴 |
初任給(月額・全国男女計) |
前年比 |
| 高校卒 |
19万7,500円 |
+5.7% |
| 専門学校卒 |
22万2,800円 |
+3.9% |
| 高専・短大卒 |
22万3,900円 |
+4.3% |
| 大学卒 |
24万8,300円 |
+4.6% |
| 大学院卒 |
28万7,400円 |
+4.1% |
高校卒(19万7,500円)と大学院卒(28万7,400円)の差は約9万円。学歴が一段上がるごとに、初任給はおおむね2〜4万円ずつ積み上がる構造です。ただし高専・短大卒と専門学校卒はほぼ同水準で、専門学校卒は女性の初任給が男性を上回る珍しい区分でもあります。
なお初任給はあくまでスタート地点の金額です。学歴差は入社時点でこそ開いていますが、その後の昇給・賞与・役職登用の積み重ねで生涯賃金の差はさらに広がることも、詰まることもあります。初任給の大小だけで進路の価値を決めつけないことが大切です。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」新規学卒者の学歴別初任給
企業規模で変わる初任給
同じ学歴・同じ職種でも、初任給は企業の規模によって差がつきます。一般に大企業ほど初任給が高く、その差は近年むしろ拡大傾向にあります。
厚生労働省「令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査」でみると、大学卒初任給は従業員1,000人以上の大企業で約27万3,400円、10〜99人の小規模企業で約24万2,400円と、約3万円の差があります。人材確保の競争が激しくなるなかで、体力のある大企業ほど初任給の引き上げに積極的で、規模による格差は3年連続で広がったとされています。
一方で、初任給が高い=働きやすい・長く得をする、とは限りません。中小企業でも、早期に責任ある仕事を任される、昇給ペースが速い、住宅手当など諸手当が手厚い、といった形で総合的な待遇を確保している会社は少なくありません。初任給はあくまで比較の入口として捉え、賞与・昇給・手当まで含めて判断することが重要です。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」企業規模別初任給
業種別で初任給はどう違うか
学歴・企業規模と並んで初任給を左右するのが業種です。賃金構造基本統計調査は産業大分類別(業種を「製造業」「建設業」のような大きなくくりで分けた区分)の初任給も公表しており、令和7年調査では大学卒初任給がもっとも高い学術研究・専門技術サービス業(29万0,100円)ともっとも低い複合サービス事業(23万6,300円)の差は約5万3,800円にのぼります。同じ「大卒スタート」でも、就く業種によって初任給には無視できない差が生まれます。
業種ごとの初任給の傾向を整理すると、次のように読み解けます。いずれも公的統計から見える一般的傾向であり、個別企業の金額は各社の募集要項で必ず確認してください。
相対的に高くなりやすい業種
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の産業別データでは、学術研究・専門技術サービス業(月額29万0,100円)、不動産業・物品賃貸業(同27万1,200円)、医療・福祉(同27万0,900円)、建設業(同26万9,800円)、金融業・保険業(同26万6,700円)が全業種平均(26万2,300円)を上回っています。専門性や資格が参入障壁となりやすい業種ほど、初任給も高めに設定される傾向があります。
愛知の主力・製造業の位置づけ
愛知県の基幹産業である製造業は、初任給そのものが突出して高いというより、賞与(ボーナス)の手厚さと安定した昇給で年収を伸ばしていく業種です。初任給の額面だけでなく、入社後2〜3年でどれだけ年収が積み上がるかまで見て比較する価値があります。
相対的に低くなりやすい業種
令和7年調査で大学卒初任給がもっとも低かったのは複合サービス事業(郵便局・農協など、23万6,300円)でした。このほか宿泊・飲食サービスや小売など、対人サービス中心で人手を多く要する業種も、初任給が控えめになりやすい傾向があります。ただし人手不足を背景に賃上げが進んでいる分野でもあり、近年は初任給を大きく引き上げる企業も出てきています。
より踏み込んで業種ごとの年収水準を知りたい場合は、愛知県の平均年収(業種別)もあわせて確認すると、初任給からその後の年収推移までを立体的にイメージできます。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」産業別初任給の傾向
愛知県の初任給は高い?地域としての位置づけ
「では愛知県の初任給は全国のなかで高いのか低いのか」——ここが最も気になるところでしょう。賃金構造基本統計調査には都道府県別の新規学卒者初任給を集計した統計表があり、愛知県の数値も公表されています。ただし本記事では、確度の高い確定値にもとづく形で愛知の位置づけを示すため、初任給そのものの都道府県順位ではなく、周辺の公的データから読み取れる傾向を整理します。
まず愛知県の一般労働者(フルタイム)の平均賃金は月額約33万2,600円で、全国平均(約33万400円)を上回っています(厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」)。全国平均を上回るのは東京都・神奈川県・愛知県・大阪府の4都府県のみで、愛知はそのひとつです。賃金全体の水準が高い地域は初任給も相対的に高くなりやすく、愛知は初任給の面でも全国上位クラスに位置すると考えられます。
もう一つの手がかりが最低賃金です。愛知県の地域別最低賃金は令和7年10月18日から時間額1,140円に改定され、令和7年度の全国加重平均(1,121円)を上回る東海地方で最高水準です(岐阜1,065円・静岡1,097円・三重1,087円)。最低賃金は初任給の下支えとなる指標であり、この高さも愛知の給与水準の底堅さを示しています。
愛知県の賃金水準の高さを支えているのは、言うまでもなく自動車を中心とした製造業の集積です。大手完成車メーカーやTier1と呼ばれる大手部品メーカーが数多く立地し、県全体の賃金を押し上げています。初任給を含めた愛知の給与環境を理解するうえで、この産業構造は欠かせない前提です。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」都道府県別結果/厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度)/愛知県・愛知労働局公表の地域別最低賃金(令和7年10月18日改定)
初任給だけで会社を選ばないための視点
ここまで、学歴・企業規模・業種、そして愛知県という地域の視点から初任給の水準を見てきました。ここからは視点を変え、実際に一社を選ぶ場面でどう向き合うべきかを考えます。初任給は比較しやすい数字ですが、初任給が高い会社が「入って得をする会社」とは限りません。入社後の待遇まで見据えて判断するために、押さえておきたい視点を四つ挙げます。
賞与(ボーナス)を含めた年収で比べる
製造業や金融業は賞与の比重が高く、初任給(月額)の差以上に年収では差が開くことがあります。逆に月給が高くても賞与が薄い会社もあります。初任給の月額だけでなく、年間の賞与月数を含めた「年収ベース」で比較しましょう。
昇給ペース・数年後の年収を確認する
初任給が横並びでも、その後の昇給スピードで数年後には大きな差がつきます。「入社3年目・5年目のモデル年収」を提示している企業なら、初任給からどう伸びるかを具体的にイメージできます。スタート地点より、伸びしろに注目する視点が有効です。
額面と手取りの違いを理解する
初任給として提示される金額は「額面(総支給)」です。ここから社会保険料・税金が引かれるため、実際に手元に残る手取りは額面のおおむね8割前後になります。生活設計は手取りベースで考えることが大切です。
諸手当・福利厚生まで含めて総合評価する
住宅手当・家賃補助・寮の有無・通勤手当・退職金制度などは、額面には表れにくいものの生活の余裕を大きく左右します。初任給が同程度なら、こうした諸手当や福利厚生の手厚さが実質的な差になります。
初任給は「入口」、伸びしろまで見て選ぶ
本記事では、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を中心とした公的データをもとに、愛知県で働くことを考える人に向けて初任給を学歴・企業規模・業種の観点から整理しました。要点を四つにまとめます。
初任給は過去最大級のペースで上昇中
令和7年調査で大学卒初任給は全国平均26万2,300円(前年比+5.6%)と、統計開始以来はじめて26万円台に到達。数年前の相場観は通用しません。
学歴で約9万円、企業規模で約3万円の差
高校卒と大学院卒では約9万円、同じ大卒でも大企業と小規模企業で約3万円の差がつきます。初任給は学歴・企業規模・業種の組み合わせで決まります。
愛知は賃金水準が高い地域
一般労働者の平均賃金・最低賃金がいずれも全国平均を上回り、製造業の集積が給与を底上げしています。初任給の面でも全国上位クラスと考えられます。
初任給だけで会社を選ばない
賞与・昇給ペース・数年後のモデル年収・諸手当まで含めた「総合待遇」で比較を。初任給はスタート地点であり、伸びしろこそが生涯賃金を左右します。
初任給の統計は、就職・転職の判断の出発点として役立ちます。実際の意思決定では、志望企業の募集要項・モデル年収・福利厚生を確認しながら、初任給の先にある数年後の姿までイメージすることをおすすめします。愛知県で働くことを考えている方は、愛知県で年収が高い業界もあわせて参考にしてください。
主要参考資料
– 厚生労働省「令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査」結果の概況
– 厚生労働省「令和6年(2024年)賃金構造基本統計調査」新規学卒者の初任給
– 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度)
– 愛知県・愛知労働局「地域別最低賃金」(令和7年10月18日改定)
– 連合「2026春季生活闘争 第1回回答集計」(2026年3月)